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東京地方裁判所 昭和58年(行ウ)27号 判決

東京都新宿区市谷薬王寺町七一番地

原告

乾幸夫

右訴訟代理人弁護士

加藤了

東京都新宿区三栄町二四番地

被告

四谷税務署長

有賀秀雄

右指定代理人

高須要子

星川照

山田昭四郎

小澤英一

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五六年一二月二六日付けでした原告の昭和五五年分所得税についての更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和五七年九月一八日付け再更正及び過少申告加算税賦課決定により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  課税経過

原告の昭和五五年分所得税についての課税経過は別表記載のとおりである。

2  しかしながら、被告が原告に対して昭和五六年一二月二六日付けでした別表番号2記載の更正(ただし、同表番号6記載の再更正により一部取り消された後のもの。以下「本件処分」という。)には、原告に分離課税長期譲渡所得があると認定した違法があり、同表番号2記載の過少申告加算税賦課決定(ただし、同表番号6記載の過少申告加算税賦課決定により一部取り消された後のもの、以下「本件賦課決定」という。)は右処分を前提としている点で違法なものであるから、いずれも取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。

三  抗弁

1  本件処分の適法性

(一) 総所得(給与所得) 二二一万一七〇〇円

原告には昭和五五年度に右の給与所得(申告額と同じ)があった。

(二) 分離課税長期譲渡所得 五〇七二万円

原告には和年五五年度に、次の(1)の収入金額(八五〇〇万円)から(2)の取得費(四二五万円)及び(3)の譲渡費用(三万円)並びに(4)の特別控除額(三〇〇〇万円)を差し引いた右金額の譲渡所得があった。

(1) 収入金額 八五〇〇万円

ア 乾清(以下「亡清」という。)は、昭和二、三年ころ天徳寺から東京都港区虎ノ門三丁目四五番地(当時の地番同区芝西久保巴町四五番地)の土地六三・〇九平方メートルを賃借(以下同借地に係る借地権」という。)し、同借地上にそのころ別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。

イ 亡清は昭和三七年二月一七日死亡したが、その相続人は、妻である庸(原告の母)、子である博(原告の実姉)及び原告の三名である。

ウ 原告、庸及び博の間で、遅くとも昭和四五年五月八日ころまでに、本件建物の所有権及び本件借地権は原告が全部相続する旨の遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)が成立した。

右協議成立の事実は、本件建物につき昭和四五年五月八日、原告単独名義で所有権保存登記(以下「本件保存登記」という。)がなされたことからも推認される。すなわち、被相続人が所有者として表示登記されている建物について共同相続人のうちの一人が、相続による取得を理由として、単独名義で所有権保存登記を申請する場合には、他の相続人が同建物を共同相続しなかったことを証明する資料として、〈1〉遺産分割協議書(同協議に関与した相続人全員の印鑑証明書を含む。)、〈2〉特別受益証明書(当該特別受益者の印鑑証明書を含む。)あるいは〈3〉相続放棄申述受理証明書の添付を要求されるのが登記実務上の取扱いであるところ、庸及び博は相続放棄の手続をとっていないし、特別受益者でもないから、本件保存登記は前記のとおりの遺産分割協議がなされたことを推認させるものである。

エ 原告は、昭和五四年一一月一九日百寿興業株式会社(以下「訴外会社」という。)との間で本件建物及び本件借地権を代金八五〇〇万円で売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、右契約に基づいて翌五五年一月一四日、同会社に右建物及び借地を引き渡すとともに同日までに右代金金額の支払を受けた。

(2) 取得費 四二五万円

租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条の四第一項本文、二項により算出した金額(右(1)の金額の一〇〇分の五)である。

(3) 譲渡費用 三万円

原告が本件売買契約書に貼付した収入印紙代である。

(4) 特別控除額 三〇〇〇万円

原告は、本件売買契約当時、本件建物に居住していた。したがって、措置法三五条一項により居住用財産の譲渡所得につき三〇〇〇万円が特別控除される。

(三) 以上のとおり、原告の昭和五五年分の総所得(給与所得)金額は二二一万一七〇〇円、同分離課税長期譲渡所得金額は五〇七二万円であるから、これと同額でなされた本件処分は適法である。

2  本件賦課決定の適法性

原告の昭和五五年分の給与所得及び分離課税長期譲渡所得の金額は前記のとおりであるから、確定申告による申告納税額(別表番号1の納付すべき税額。ただし還付額)と本件処分により納付すべき税額(ただし、再更正による税額)との増差額(国税通則法一一八条三項により千円未満切捨て)一〇九四万七〇〇〇円に一〇〇分の五を乗じて計算した金額(同法一一九条四項により百円未満切捨て)が国税通則法六五条一項の過少申告加算税となる。

よって、別表番号6の過少申告加算税額の範囲で効力を有する本件賦課決定は適法である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実は認める。

2(一)  同1(二)の冒頭の五〇七二万円の分離課税長期譲渡所得の発生は否認する。

(二)  同1(二)(1)のうちア、イの各事実は認める。

(三)  同ウ前段の事実は否認する。

同後段の事実のうち、原告が本件建物につき昭和四五年五月八日原告単独名義で本件保存登記をしたことは認め、原告、庸及び博の間に被告主張の遺産分割協議がなされたことは否認し、庸及び博が相続放棄申述の手続をとらなかった点及び特別受益者でない点を除き、その余の事実は不知。

庸及び博も原告と共に亡清の遺産を相続しているが、本件建物について原告単独名義の本件保存登記が出現したのは以下の事情による。すなわち、昭和四五年初めころ、朽廃が著しい本件建物の改修費用として、約一〇〇万円を原告が所属する日本電信電話公社東京電気通信共済組合(以下「共済組合」という。)から借り入れようとしたところ、貸付を受ける原告の単独所有名義の物的担保が必要であるとのことであったので、原告の独断で本件保存登記をなしたものである。

しかし、本件建物等は原告ら三名が共同相続した遺産であるから、原告は昭和五六年三月ごろ庸及び博を相手方として、東京家庭裁判所に遺産分割の申立てをしたし、昭和五七年一月一四日には、本件建物の買換えとして原告名義で取得した別紙物件目録二ないし五記載の土地、建物(以下「本件買換え物件」という。)につき原告ら三名の共有であることを示すため、真正なる登記名義の回復を登記原因として、庸及び博がそれぞれ特分について登記をなした。

なお、本件買換え物件を当初、原告名義で登記したのは、本件借地権及び本件建物の売却代金をもって右買換え代金の支払に当てる関係上、本件建物の登記名義と買換え物件の登記名義とを同一にする必要があったところ、本件買換え部件の買受けを急がないと入手不能となる情勢にあり、本件建物の登記名義を原告、庸及び博の三名の共有名義に是正した上で訴外会社に売却し、代金を取得する時間的余裕がなかったための一時的便法である。これについては庸及び博も了承していた。したがって、本件買換え物件が初め原告名義で移転登記を受けた事実も本件建物等の共同相続と矛盾するものではない。

(四)  同エの事実のうち、本件売買契約書の名義上の売主が原告であることは認めるが、実質的売主も原告であること、本件建物及び借地の引渡しと代金の受領を原告がなしたことは否認し、その余の事実は認める。

本件売買契約の売主は、原告、庸及び博の三名であり、目的物の引渡しと代金の受領も右三名でなした。

したがって、右譲渡による原告の収入金額は八五〇〇万円の三分の一の二八三三万三〇〇〇円である。

3  同1(二)(2)の事実は取得費算出の基礎となる原告の収入金額を右2(四)末尾の金額を超える限度で否認する。

すなわち、原告の取得費は、原告の収入金額二八三三万三〇〇〇円の一〇〇分の五に当たる一四一万六六五〇円である。

4  同1(二)(3)の事実のうち、本件売買契約書に貼付されている収入印紙代は認めるが、原告の譲渡費用はその三分の一の一万円である。

5  同1(二)(4)の事実は認める。ただし、特別控除額は、本件建物及び借地権の譲渡に係る原告の譲渡益二六九〇万六三五〇円と同額となる(措置法三五条一項一号の「低い金額」該当)。

6  同1(三)のうち、分離課税長期譲渡所得は否認する。右5の特別控除額は原告の譲渡益と同額であるから、その課税所得は零である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1(課税経過)の事実は当事者間に争いがない。

二  本件処分の適法性について

1  抗弁1(一)の総所得(給与所得)の存在及びそれが確定申告額と同一であることは当時者間に争いがない。

2  分離課税長期譲渡所得について

(一)  収入金額(抗弁1(二)(1))について

(1) 抗弁1(二)(1)のうちア(亡清の本件借地権と本件建物取得)及びイ(亡清の相続開始)の各事実は当事者間に争いがない。

また、抗弁1(二)(1)エ(本件売買契約の成立と履行)の事実は、本件売買契約における売主が原告単独であり、目的物の引渡し及び代金の受領も原告単独であるとの点を除き当事者間に争いがなく、原告も本件売買契約の契約書上は原告のみが売主と記載されている事実は認めるところである。そして、抗弁1(二)(1)ウの事実のうち、原告が昭和四五年五月八日本件建物につき原告単独名義で本件保存登記をしたことは当事者間に争いがない。

(2) そこで、本件売買契約における売主が原告単独であるか、原告、庸、博の三名であるかについて検討する。

成立に争いのない甲第七ないし第九号証、第一八号証、乙第一号証、第四号証、第七号証の一ないし四、原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証、第五号証、第六号証の一、二、第八号証、第九号証の一ないし三、第一二、第一三号証、証人右手崇視の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一四号証、証人村吉市郎、同乾博(各一部)、同右手崇視の各証言、原告本人尋問の結果(一部)並びに弁論の全趣旨を総合すると、

ア 亡清、庸(明治二五年一一月九日生)、博(大正五年四月二一日生)及び原告は、昭和二年ころから本件建物に居住(博は婚姻のため昭和一四年から昭和一八年にかけて一時別居)し、原告が婚姻した後は、原告の家族も本件建物に居住し、亡清の死亡後も庸及び博と原告一家との右同居は本件売買契約まで継続した。もっとも、亡清の死亡後は、本件建物の固定資産税及び火災保険料並びに天徳寺に対する毎月の本件借地料の支払いは原告の負担においてなされるようになった。

イ 本件建物については、亡清を所有者とする表題部の登記のみがなされ、権利の登記はなされていなかった。そこで原告は、右相続開始から約八年が経過した昭和四五年ころ、本件建物を自己単独名義で所有権保存登記をしようと考え、所轄の芝税務署を訪れ、右登記をした場合の税金問題について相談した結果、本件建物の課税価格が極めて少額なので懸念する必要のないことが判明したので、法定相続人である庸及び博にこの事を話し、原告の単独所有として権利の登記をすることについて了解を得て、本件保存登記の申請をした。

ウ 原告は、天徳寺の所有地の再開発事業を担当していた訴外会社(代表取締役村吉市郎)から本件建物及び本件借地権を買い取りたい旨の申入れを受け、右交渉と平行して、買換え物件の入手について訴外会社の下請会社と交渉を進めた。

その結果、まず昭和五四年一一月一九日、本件建物及び本件借地権につき、売主を原告、買主を訴外会社、売買代金額を八五〇〇万円とする本件売買契約が締結され、訴外会社は、翌 五五年一月一四日原告から右建物及び借地の引渡しを受けた(売主以外の点は当事者間に争いがない。)。右売買代金は、昭和五四年一一月一九日に二〇〇〇万円、同年一二月一八日に中間金四五〇〇万円、翌五五年一月一四日に残金二〇〇〇万円が、いずれも住友銀行虎ノ門支店の原告名義の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)に振り込むことによって支払われた。

なお、本件売買契約においては、売買の目的たる権利の移転時期を売買代金完済の時とする特約が締結されていた。

エ ついで、昭和五四年一一月二一日、本件買換え物件につき、売主を井波義雄ほか二名、買主を原告、売買代金額を七五〇〇万円とする売買契約が締結され、右売買代金は、本件預金口座に振り込まれた本件売買代金の中から支払われ、本件買換え物件については原告単独名義の所有権移転登記がなされた。

オ 原告は昭和五五年二月四日、本件買換え物件のうち別紙物件目録五記載の建物の修繕工事を三関建設株式会社に請け負わせ、その請負報酬三七八万八〇〇〇円も本件預金口座から支払った。

との事実が認められる。

右認定のとおり、本件売買契約は、契約書上の形式的記載のみならず、実質においても原告が単独で締結し、単独で売主となり、単独で代金を収受したものであり、同代金は原告が単独で買い受けた本件買換え物件の代金の支払及び改修請負工事の報酬の支払に消費されたものである。

(3) 原告は、本件建物及び本件借地権は亡清の相続人である庸、博及び原告が相続により各三分の一の持分を有する共有財産であるから、原告単独で本件売買契約上の売主となったものではないと争う。

しかし、本件保存登記が原告単独所有としてなされるためには、表題部で所有者とされた亡清からの単独相続を証する資料として、原告が亡清の相続人であることを証する戸籍騰本のほか、単独相続の旨が記載されている〈1〉遺産分割協議書及び同協議書に押印した相続人全員の印鑑証明書又は〈2〉特別受益証明書及び同証明書に押印した特別受益者の印鑑証明書もしくは〈3〉相続放棄申述受理証明書のいずれかを添付した登記申請が要求されるのが登記実務上の取扱いである(この事実は前掲乙第三号証によっても認められる)。

ところで、亡清の法定相続人である庸及び博が相続放棄申述の手続をしなかったこと及び右相続について特別受益者にも該当しないことについては原告が明らかに争わないから、これを自白したものとみなされる(かえって、原告は右両名が相続分を有すると主張する。)。そうであれば、本件保存登記の申請手続は右〈1〉の方法によったものと一応推認され、同申請に基づいて右登記がなされた事実に鑑みれば、本件保存登記申請に先立って、少なくとも本件建物を原告の単独相続とする旨の遺産分割協議がなされ、同協議書が作成され、これが右登記申請の際添付されたものと推認できる。なお、法律上は右のような遺産分割協議がなされているにもかかわらず、登記申請手続上は、便法として、当該遺産を相続しなかった者が、自己を特別受益者であるかの如く表示したいわゆる相続分なきことの証明書を作成し、これを添付して同様の登記を申請することもまま行われるので、本件保存登記の申請手続が右便法を用いた可能性もないではない。しかし、そうであったとしても、庸及び博は何らの受益を亡清から受けていないのであるから、その前提として共同相続人間に少なくとも本件建物を原告の単独相続とする旨の合意が成立したものと推認することを妨げるものではない。

本件保存登記手続から推認される右の遺産分割協議成立の事実、原告が亡清の死亡後本件建物に係る公租公課及び保険料並びに借地料をすべて負担していた事実、本件建物及び本件借地権の売却の経過と本件買換え物件の購入及び登記の経過等に現われた原告の単独の権利者としての一貫した行動等に鑑みると、遅くとも本件保存登記申請時までに、原告、庸及び博との間に、本件建物及びこれに従たる本件借地権を原告が単独相続する旨の遺産分割協議が成立したとみるのが相当である。

(4) 原告は、本件保存登記は老朽化した本件建物の改修のため共済組合から一〇〇万円の融資を受ける便宜上なされたもので、それも原告の独断でなされたものであると主張し、甲第一八・第一九号証並びに証人村吉市郎、同乾博の各証言及び原告本人尋問の結果中にはこれに副う部分もみられるが、いずれも成立に争いのない甲第一二号証の一、二、第一三号証、乙第一一号証によれば、原告が所属する共済組合から右のような住宅貸付けを受けるためには、債務弁済低当権設定契約の締結は義務づけられているものの、右抵当権の目的物が借主と第三者との共有物であるときでも当該共有者を物上保証人として右契約を締結せしめれば足り、借主となる組合員の単独所有名義の物的担保の提供を要件とするものではないことが認められる。また、前掲乙第一号証、証人乾博の証言及び原告本人尋問の結果によれば、本件保存登記の前後から本件売買契約時までの間に本件建物に抵当権が設定されるとか、同建物の改修がされた事実はなかったことが認められる。

そうすると、本件保存登記が専ら融資の便宜のためだけの目的でなされた旨の前掲各証拠はにわかに措信できない。また仮に、融資の便宜が同登記申請に及んだ一つの契機であったというだけであるならば、そのことと前記(3)のような遺産分割協議の成立とは相容れないものではないから、前示認定を左右するものではない。

(5) なお、成立に争いがない甲第一〇号証の一ないし六によれば、原告が昭和五六年三月六日、東京家庭裁判所に庸及び博を相手方として本件保存登記に関し親族間の紛争調整の調停を申し立てたことが認められるが、右調停の申立ては本件売買契約から一年余を経過して、原告の昭和五五年分の所得税の確定申告の直後に至ってなされていること、前記認定のとおり、本件建物について原告所有名義の保存登記がなされてから、右調停申立てまでの約一年の間に、右申立ての原因となるような紛争が関係者間にあったことを認めるに足りる証拠はないことに鑑みると、右申立ての事実も前記認定の遺産分割協議の成立を覆すには至らない。

また、前掲乙第七号証の一ないし四によれば、本件買換え物件につき昭和五七年一月一四日受付で真正な登記名義の回復を原因として原告から庸及び博へ各持分三分の一ずつとする所有権一部移転の登記がなされている事実が認められるが、右登記は本件処分の直後になされたものであって、前記遺産分割協議の成立の認定を左右するに足りる事実とはならない。

(6) 以上のとおり、本件売買契約上の売主は実質においても原告と認められるから、原告は、本件建物所有権及び本件借地権を訴外会社に移転し、かつ各目的物を引き渡した日である昭和五五年一月一四日にその譲渡利益を確定的に享受したものというべきであり、原告の右売買に基づく昭和五五年分の収入金額は八五〇〇万円全額である。

(二)  取得費(抗弁1(二)(2))について

前述のとおり、本件建物及び本件借地権の譲渡人は原告であるから、右収入金額八五〇〇万円から控除されるべき原告の取得費は、措置法三一条の四第一項本文、二項により四二五万円である。

(三)  譲渡費用(抗弁1(二)(3))について

本件売買契約書に貼付を要した収入印紙代が三万円であることは当事者間に争いがなく、右(一)(2)の認定事実に基づけば、右全額が原告の譲渡費用として譲渡収入から控除されるべきものである。

(四)  特別控除額(抗弁1(二)(4))について

抗弁1(二)(4)の事実は当事者間に争いがないから、前記(一)(2)の認定事実に基づけば、措置法三五条一項により原告の譲渡所得から三〇〇〇万円の特別控除が認められる。

(五)  したがって、原告の昭和五五年分の分離課税長期譲渡所得金額は、収入金額(八五〇〇万円)から取得費(四二五万円)及び譲渡費用(三万円)並びに所得特別控除額(三〇〇〇万円)を差し引いた五〇七二万円である。

3  以上のとおり、原告の昭和五五年分の総所得(給与所得)金額は二二一万一七〇〇円、分離課税長期譲渡所得金額は五〇七二万円であるから、これと同額でなされた本件処分は適法である。

三  本件賦課決定の適法性について

原告の昭和五五年分の所得金額は前述のとおりであり、別表番号1記載の原告の確定申告は過少である。その結果、本件処分により国税通則法六五条一項に従い原告が納付すべき増差税額が一〇九四万 七九〇〇円となることは別表記載の納付すべき税額から計算上明らかであるから一〇九四万七〇〇〇円(端数処理につき同法一一八条三項)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した五四万七三〇〇円(端数処理につき同法一一九条四項)が過少申告加算税額となる。したがって、これと同額の本件賦課決定は適法である。

四  よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本和敏 裁判官 杉山正己 裁判官 滝澤雄次)

物件目録

一 東京都港区虎ノ門三丁目四五番地

家屋番号 同町一五六番

木造瓦葺二階建店舗

床面積 一階 四七・二〇平方メートル

二階 四八・八九平方メートル

二 東京都新宿区市谷薬王寺町七一番一九

宅地 八三・三〇平方メートル

三 同所七一番三一

宅地 四九・六八平方メートル

四 同所七一番三六

宅地 一・一二平方メートル

五 同所七一番地一九、同番地三一

家屋番号 七一番一九の一

木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階 七七・二九平方メートル

二階 七八・八五平方メートル

右は正本である。

昭和五九年一二月二七日

東京地方裁判所民事第第三部

裁判所書記官 森川春吉

別表

課税経過

〈省略〉

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